今の20~40代男性諸君ならば、一度は真似したことがあるだろう。
『マトリックス避け』
1999年公開の大ヒット映画『MATRIXシリーズ』の第一弾の超有名シーンでR。
キアヌ・リーブス演じる主人公のネオ様が、エージェント・スミスの銃から放つ弾丸を、極上のえび反りをカマして避けるシーン。
でも、銃を構えてる相手にあの避け方って有効なの?
え?・・・あ、はい、有効な訳がありません。
結局、足は撃たれてますし。(「撃たれるんかーい!」と突っ込んだのを覚えている)
どう考えても、あの角度で後ろに倒れ込んだら大きくバランスが崩れますし、大腿筋と腹筋力と背筋力がなかなかに必要で、そこそこ鍛えていても、キアヌーのレベルまで仰け反ってしまうと、普通に起き上がれません。ワンダーコアでも仕込んでない限り、ちょっと無理です。限界に挑戦することはできますが。
では、何故、僕が数多と溢れる銃撃シーンの中から『マトリックス避け』を選んだのか?
あれは悪い例だからです。
めちゃめちゃお洒落でカッコイイけど、やってみたくもなってしまうけど、間違っても、本番(?)でアレをやってはなりません。生存確率、限りなくゼロに近いブルーです。
というわけで、今回は拳銃(ハンドガン)を持った相手と対峙した時に弾丸から逃れる方法を学びます。
まず、闘うという選択肢は考えません。
その状況下でその発想ができる方は、既にちょっと色々な意味でかなーりアレな方だと思いますので、異なる次元でマトリックス避けができるはずです。そちらを採用していただければと思います(無責任)。
諸々調査した結果、これなら一般人でもイケるんじゃないのか?という方法を3案ほど抽出しました。
状況によるところも大きいので、ありがちな設定もつけます。
・相手との距離は10メートル(銃身を掴む、とかはできない距離)
・相手の手には拳銃(ハンドガン)
・周囲は港の倉庫街、すぐ横に海あり
・アナタに武器は一切なし、格闘経験とかもなし
・昼
どうだね、このいかにもな感じ。
アメリカでも日本でも、港の倉庫街と言ったら、裏取引の最有力候補!
そこでアナタは、ちょっとヤバそうな取引現場を目撃してしまい、銃を突き付けられてしまうのです。
この状況だと、もはや話し合いとかは難しい。相手は、何とかしてアナタの口を塞がねばならないのだからっ。
さて、この状況下で銃弾から逃れて生き残る最適な方法は?
①銃口と発射される瞬間を見極めて、銃弾を避ける
②ジグザグに走って逃げる
③海の中に飛び込む
うん、『マトリックス避け』は選択肢にも上がらない。
最適解は、
②ジグザグに走って逃げる
だ!
一つずつ、見ていきましょう。
①銃口と発射される瞬間を見極めて、銃弾を避ける
相手が拳銃(ハンドガン)で、距離が10メートルもあれば、銃弾をかわす、それ自体は可能だ。一応、不可能ではない。
勿論、時速300~400kmで撃ち出される弾丸を視認することはできない。よって、銃口から弾丸の軌道を予測し、相手の動きから撃つ瞬間を予測することでかわすしかない。
ボクシングの試合を見たことがあるだろうか?リング上の二人は、互いのパンチをヒョイヒョイかわしているが、実際にパンチを”見て”かわしている訳ではない。プロボクサーのパンチは、およそ時速40km(もっと速そうだが、これくらいらしい)。それでも、ほぼゼロ距離で向かい合っている以上、目で”見て”かわせるスピードではない。相手の状況や動きから、予測してかわしているのだ。
バッティングセンターの方が状況は似ているかもしれない。最速だと150kmの野球ボールが飛んでくる。これも実際には、目で”見て”からバットを振っている訳ではない。試合とは違い、ボールの軌道はわかっているし、打ち出されるタイミングもわかっている。それに合わせて、予測を立ててバットを振っているのだ。
とは言えど。
不可能ではないというだけで、銃弾は、ボクサーのパンチや野球ボールよりも遥かに速く、影すら見えない状態で飛んでくる。予測のタイミングを間違えれば瞬時にアウトだ。仮にミラクルで1発目を避けられたとしても、おそらくその1発目で姿勢は保てていないだろうし、2発目以降は相手も考えてくるので、相当ツライだろう。つまりこれは、1発限りのマトリックス避けの問題に近い。
リボルバーは6発、オートマティックなら10発前後は撃てる。全てをかわさなければならない。これでは生き残れない。
【ホビー銃でやってみた】
リアル銃には及ばないが、サバゲー時に試してみたことがある。距離10メートル程度で、お互いを正面に据え、電動ホビー銃のアサルトライフルから放たれるBB弾(時速80km程度)をかわせるかどうかという実験だ。
BB弾は軽いので、速度はすぐに落ちる、ある程度は目で見える。ただやはり、発射される弾丸を”見て”から、かわすのは不可能だった。見えたと思った瞬間には当たっている。引き金を引く瞬間を予測して、大きく右か左に一歩以上飛べば、かわせる、というところだった。
このとき、実際やってみてわかったことは、頭部へのショットの方がかわしやすい、ということだ。上半身でも、ある程度は反応できる。しかし、下半身を狙われた場合は、ちょっとでもタイミングがずれると、余裕で当たってしまう。重力に魂を引かれている人間には、可動領域に限界があるということだろう。距離が10メートルもあると、正直なところ、銃口で何処を狙われているかは、ほとんどわからなかった。
ちなみに。
距離が5メートルの場合は、90%、かわすことができなかった。引き金を引くタイミング予測がドンピシャでも、人間の身体能力では弾道範囲から出ることができないのだ。これはつまり、どう動いたって当たる、ということだ。5メートルの至近距離の場合は、逃げるか、向かって行くか、微妙なところになる。撃たれたら当たってしまう距離なので、向かいたいところだが、相手に届く前に撃たれてしまう距離でもある。2メートル以内の超至近距離なら、銃身を掴んでとにかく別の方向に向けさせる、という力業に入れるが、おそらく5メートルは、最悪の距離感だ。無駄話でもしながら、近づくか離れるかしてから行動を選択しないと生き残れない距離感だろう。
距離を20メートルにすると、急激に射撃の精度が落ちるのと、目で”見て”からかわせるので、ほぼ当たらなくなった。しかし時速80kmのBB弾の話なので、この4倍の速さで飛んでくる実弾をかわすのは、やはり奇跡の手伝いがあって一度きり、といったところだろう。
②ジグザグに走って逃げる
射撃の命中率というものは、実戦ではかなり低いもの。映画やドラマの中の警官や捜査官は凄腕しかいないが、あそこまでの名手はそうはいない。
ホビー銃でもリアル銃でも、一度でも銃を撃ったことがある人ならわかると思うが、止まっている標的(まと)ですら、拳銃で同じところに当て続けるのはかなり難しい。
僕自身、海外でライフルから拳銃(ハンドガン)までリアル銃を何度か撃ったことがあるので、この感覚は実体験としてわかる。
特にリアル銃は、口径の小さいものでも1発ずつにリコイル(反動)があり、両手で固定していても多少はブレるため、基本的には1発ずつ照準を合わせ直す必要がある。
さすがに二丁拳銃は試さなかったが、片手でも銃を撃つこと自体はできる。ただ、片手だと銃本体がフラついてしまうので、照準がまったく合わなくなるのだ。威嚇射撃であれば問題ないが。
ちなみにデザートイーグル50AEと呼ばれる本物の拳銃(ハンドガン)は、最大威力の50口径を誇り、重さも2kg、「ロマン砲」とも「ハンドキャノン」とも呼ばれているが、実際、凄まじい反動(リコイル)がある。他の拳銃(ハンドガン)とは発射音からして違っていて、小爆発音と同時に薬莢が排出される『ギィン』という金属音が余韻を残すレベルで響き渡る。それだけの威力があるということだ。肩が外れるというのはさすがに嘘だったが(女性も撃っていた)、どんなに踏ん張っても、1発撃つだけで両腕ごと跳ね上がってしまうので、狙いをつけたまま連射することはできなかった。
止まっている標的(まと)ですらそうなのに、相手が動いていれば尚更だ。横方向に動いている相手に照準を合わせながら狙い撃つのはかなり難しい。照準さえ狂わせることができれば、撃たれても弾に当たる確率は激減する。拳銃(ハンドガン)の現実的な有効射程範囲は10メートル程度と言われており(実際には50mと表記されている)、それ以上になると、ほぼ当たらなくなる。
ジグザグに走る、のはこのためだ。
相手から真っすぐ遠ざかるだけでは、動いていても照準は合わせやすい。背中から撃たれて終わりだ。斜めに遠ざかっても、狙いにくくはなるが、予測が立てられないこともない。しかしこれが、左右に動きながら遠のいていくとなると、射手にとってこれほど照準を合わせにくい動きはない。その間に距離はどんどん開き、命中率は下がり続ける。50メートルも離れたら、完全に拳銃(ハンドガン)の射程範囲外となる。これで当たるようなら、それはもう運が悪かったとしか言えない。
闇雲に走り出せばいいワケではない。すぐに体力が尽きてしまう。ひとまず銃弾から身を隠せる場所、遮蔽物を求めて走る。このとき、目的地がはっきりしているがゆえに、真っすぐ走ってしまいかねない。これが危険だ。早く身を隠せる場所まで辿り着きたいのはわかるが、そのときこそ、ジグザグに走っていくのだ。
当然、相手が追いかけてくる場合もあるだろう。しかし、走りながら銃を正確に撃つのは、上記のどれよりも難度が高くなる。
普通に想像できると思うが、これもサバゲーで体験済みだ。移動中に銃を撃つこと自体ほとんどないが、走りながら照準を合わせることなど端から無理で、人影が見えるところに何となくで撃つ、のが関の山だ。おそらくゴルゴ13くらいしかできない。いや、ゴルゴでさえ、ほとんどやったことがない(一応スナイパーですし)。
③海の中に飛び込む
映画などではお馴染みとすら言えるこちらのシーン。
銃撃戦の最中、海やプールに飛び込んで、そのまま相手は水面に向けて何発も撃ち込むが、主人公に届く前に弾丸は水中で止まる。
見た目が派手なので、『ジグザグに逃げる戦法(見た目的には確かに地味)』より採用されるのだろうが、実際、水は弾丸の威力を弱めるのだろうか。
そう、かなり弱めるのだ。
アメリカの人気ドラマ『CSI 科学捜査班』でもやっていたが、水の分子は密度が高く、空気の分子よりも遥かに抵抗力が高くなるため、水中での移動エネルギーはすぐに抵抗力で打ち消されてしまう、的な説明だったと思う。拳銃の弾丸であれば、僅か1メートルほどで止まってしまう。つまり水深1メートル以上、安全圏では2メートル潜れば、まず弾丸が届くことはない。
どれくらい水の抵抗によって弾丸の威力が落ちるのか。
その疑問に文字通りカラダを張って答えてくれたのが、ノルウェーの物理学者、アンドレアス・ワール教授だ。
アホだ。完全にアホだ。これが真の科学者の姿だ。現代のマッド・サイエンティスト。喝采を送る。
彼は、水中で実際に発射されるアサルトライフルの前に、標的として自分が丸裸で立って見せた。しかも使用されている銃が、「SIG SG550」だ。スイス軍にも採用されているアサルトライフルで、ライフル弾を使用するため、初速は時速600~800kmと、拳銃(ハンドガン)の威力を遥かに超える速度と威力を誇る。それが、水の中ではこの程度のパワーしか出せていない。発射自体が水中、という違いはあるが、弾丸は2メートルも進まなかったのだ。
しかしこの『海(水中)に飛び込む』、やはり後事に問題が残る。
確かに、水中に入れば弾丸の威力は弱められるが、飛び込んだ後、どうするのか。不用意に水面に出れば、狙い撃ちになる。水中では素早く動けない。人間である以上、潜り続けていることもできない。
これが夜の海であれば、ひとまず沖に向かって潜水で10メートル以上離れれば、水面に出ても狙い撃ちされることはないかもしれない。視界が悪くてそのまま逃げることも可能かもしれない。しかし昼間はきつい。岸からは丸見えだ。よほど泳ぎが得意でないと、逆に自分の首を絞めかねない。
効果としては有効ではあるので、状況によっては選択肢にはなり得る。
走るのよりも泳ぐ方が得意、相手の足が早すぎて距離を稼げない、このままではまずい!やられる!みたいなときは、海に飛び込むのはアリだろう。アリエッティだろう。希望はつなげられる。しかしプールはナシエッティだ。どう考えても、そのあとどうにもならない。
こういうことは、イメージトレーニングが大事です。
そんなことは起こり得ないと決めつけてしまっていると、もしもの場合にカラダが動きません。
海外渡航が多い僕でも、銃を突き付けられたことは未だにありません。観光地でも、カンボジアの世界遺産、アンコールワットとかは、普通にゲートに兵隊さんがいるので、本物のアサルトライフル(たぶんAK47)と、腰に下げていたハンドガン(たぶんトカレフ)を間近で見る機会くらいはありますが、悪役が銃を手にしているところには出会ったことがありません。
もちろん、海外渡航時は事前に外務省の海外安全ホームページなどで、治安チェックは行いますし、危険だとわかっている地域に度胸試しになんて行きません。しかしそれでも、地元の文化に触れるのが楽しみなので、現地語しか通じないような市街地には出向きます。相手の言っていることがわからないときは本気で怖いので、そういう事態は起こり得るとは思って身構えてます。
実行できるかどうかは・・・ゴクリ。
ま、まぁ、何の予備知識も心構えも、ないよりはマシかなと。
ちなみにネオ様は、イメトレの結果、最終的に手をかざすだけ銃弾を防いじゃいます。
憧れの『銃弾の雨あられテレキネシス・ストップ』。
イメトレ、大事。
サバイバルポイント
銃で撃たれそうになったら、ジグザグに逃げろ!