これまで人類は、幾度となく疫病とパンデミックに苦しんできました。
ペスト、コレラ、スペイン風・・・
そしてそのたびに戦い、生き延びてきたのです。
そのような先人たちの物語には、今、私たちが学ぶべきことがたくさん詰まっています。
これからの世界を生きるため、疫病と戦ってきた先人たちの漫画を3つご紹介します。
『陽だまりの樹』
著者:手塚治虫
掲載誌:ビッグコミック
出版社:小学館
単行本全11巻
『陽だまりの樹』あらすじ
幕末期の日本。
不器用ながら真っ直ぐな武士・伊武谷万二郎と、西洋医学を取り入れて天然痘の予防・治療をおこなう種痘所の設立に関わった医師・手塚良庵(のち良仙)との交流を、時代の変化とともに描いた作品。
手塚良庵は、著者の曾祖父にあたる実在の人物です。
『陽だまりの樹』おすすめポイント
主人公の一人である良庵の母はコレラで帰らぬ人になります。
黒船とともにもたらされたコレラは九州でパンデミックを起こし、あっという間に江戸へ到達。
噂や迷信に振り回された人々はパニックに陥り、コレラに効くという品物の詐欺も横行します。
しかし、良庵らは蘭学によって得た知識に基づいた正しい対応をすることで人々を救おうとするのです。
不正確な情報は不安を大きくし、判断を鈍らせるだけ。
常に正しい情報をアップデートし、適切な行動がとれるように努めるべきであり、そのことを教えてくれるのが『陽だまりの樹』のコレラのエピソードです。
『侠医冬馬』
著者:村上もとか
共同作画・かわのいちろう
掲載誌:グランドジャンプ
出版社:集英社
単行本3巻まで発売中
『侠医冬馬』あらすじ
華岡青州が世界初の麻酔手術を成功させたことにより注目を集めることとなった華岡流外科。
その当時、最新の医療を普及させようと開かれた大阪の合水堂で学ぶのが、松前藩医の家系に生まれ、剣の名手でもある主人公・松崎冬馬です。
蝦夷では、天然痘が流行。
幕命を受けた冬馬は、医師団の一員となって蝦夷へ向かい、アイヌの人々を天然痘から救うため奮闘するのでした。
『侠医冬馬』おすすめポイント
冬馬が学んでいた合水堂は、『陽だまりの樹』に登場した緒方洪庵による適塾のすぐそばにあり、両者はライバル関係にあったようです。
合水堂について「漢医の大家で裕福な学生が多い」と著書に記した福沢諭吉は、第一話でさっそく冬馬と衝突しています。
とはいえ、蘭医も漢医も人の命を救いたいという根本にある思いは同じです。
緒方洪庵は「種痘の技術より、いかに種痘を人々に理解させるかの方法を学んでもらわねばならんのだ」と『陽だまりの樹』の主人公に言っています。
そして、種痘を恐れてなかなか受けたがらないアイヌの人々の心を開いたのは、漢蘭折衷派の医学を学んだ冬馬による懸命な治療でした。
あらゆる手段で命を救おうとしてきた先人の姿には、今、戦っている多くの医療者の姿が重なります。
『陰陽師』
原作:夢枕獏
漫画:岡野玲子
掲載誌:コミックバーガー→コミックバーズ→月刊メロディ
出版社:スコラ社→白泉社
単行本全13巻
『陰陽師』あらすじ
平安時代に実在した陰陽師・安倍晴明を主人公とした小説が原作。
友人であり、こちらも実在の人物である源博雅とともに、京で起こる不思議な事件を解決する清明の活躍を描いています。
『陰陽師』おすすめポイント
平安期は疫病の多い時代でもありました。
『陰陽師』に登場する当時の行事・風習の多くは、疫病を避けるためにおこなわれていたものです。
それらのなかには、結果的に疫病の原因とされるものから身を遠ざけることができるなど、理に適ったものもありました。
たとえば、穢れを避けるための「物忌み」は、当時の「ステイホーム」と言えるのではないでしょうか。
ついついオカルティックな面に注目しがちですが、陰陽師はこうした方法で人々を守ってきたという見方もできるわけです。
温故知新。
迷信を鵜呑みにするのはパニックやトラブルのもとですが、なかには教訓として活かせる言い伝えもありそうです。
サバイバルポイント
疫病には迷信も付いて回りますが、実際に効果的なのはソーシャルディスタンシングや公衆衛生であることが、各作品からも伺えます。
ワクチンなどの治療薬は各専門家の努力によるものですが、予防や拡大防止は私たち一人ひとりが心がけることが大切です。
正しい知識を身に付け、この難局を乗り越えていきましょう。