「ひもじい、寒い、もお死にたい。不幸はこの順番で来ますのや。」
これは「じゃりン子チエ」のおばあはんの言葉です。
この不幸の連鎖を「寒い」で止めて、サバイバルしていこうというのが今回のテーマです。
テキストは漫画『雪花の虎』
その場・道具いらずで暖をとることを学ぶためのテキストは東村アキコ作の漫画「雪花の虎」。
雑誌「ヒバナ」(廃刊)に連載後、2018年から「ビッグコミックスピリッツ」で再連載されています。
『雪花の虎』は、上杉謙信女性説に基づいた歴史漫画で、作中でもたびたび女性説を裏付けるエピソードを紹介。
史実として伝わる数々の上杉謙信のエキセントリックな行動も、実は女性であったゆえの事情を誤解されたものだとすれば、納得いくものが多い・・・とし、謙信=虎を意外な姿で描き出しています。
そして作中ではもうひとり、意外な姿で描かれる人物がいます。
それが、武田晴信。
「天台座主沙門☆信玄より☆」「第六天魔王☆信長より☆」という有名な書状でお茶目をかましておきながら、信長にだけ中二病の汚名を着せて自分は無傷で逃げ切ったあの名将・武田信玄です。
分かりやすく、以下は「信玄」と呼びましょう。
信玄と言えば、大河ドラマ「風林火山」とかビジネス新書にちょくちょく登場する知恵ものっぷりとか、例のうちわ持った髭の肖像画とか、そのあたりの髭系なイメージが一般的ではないでしょうか。
ですが、この作品の信玄は、近年発見された細面の肖像画をもとにした線の細い青年の姿で描かれています。
その信玄の初陣と言われるのが、海ノ口城の戦。
信玄16歳の頃のことでした。
海ノ口城は現在の長野県南佐久郡南牧村にあった平賀氏の山城です。
信玄の父・武田信虎が八千の兵を率いて攻めたものの、平賀氏は兵2000で籠城。
これがなかなか落ちず、信虎はいったん甲斐へ引き上げることに。
ここで初陣の信玄は殿(しんがり)を志願し、それを信虎に認められ、300の兵と残ったのでした。
この海ノ口城の戦が、コミックス第一巻収録の第三話に描かれています。
そして、ここで今回のサバイバル「その場・道具いらずで暖をとる」その方法が登場するのです。
雪降る極寒の夜を、火を焚かずしていかに乗り越えたのか?
海ノ口城の戦の季節は冬、12月。
山城である海ノ口城の標高は1357メートル。
標高が高くなると空気が薄くなり、熱伝導の効率が悪くなります。
また、地形的に気温の上昇に必要な平地面積も小さくなってしまいます。
そのため、標高と気温は反比例の関係にあり、100メートルごとに0.6℃ずつ気温が低下。
1000メートルで-6℃というわけです。
ちなみに皇居大手門前の標高は3メートル。
つまり、海ノ口城は皇居大手門前よりだいたい8℃くらい寒いということになります。
その寒さは国の御墨付き。
世間ではあまり知られていませんが、世の中には寒冷地手当というものが存在します。
主に国家公務員の手当てで、国が指定した「寒冷地」に在勤するにあたって支給されます。
海ノ口城があった佐久市は、寒冷地四級地指定。
つまり、国が認める寒さというわけです。
そう、海ノ口城は寒い。
超寒いのです。
現に、寒さのために武田軍は引いています。
故に、平賀氏も出城の海ノ口城から撤退していきます。
しかし、残った信玄と300の兵は信州の冬の夜を耐え抜き、平賀氏が撤退して空になった海ノ口城を落とすことに成功します。
この地を知る平賀氏の予想を越えて、信玄と兵は雪降る極寒の夜をどのように耐え抜いたのでしょうか。
「雪が降って参りましたぞ。火を焚かなければ兵が凍えて死んでしまいます。」
「敵に見つけてもらいたいなら火を焚いて狼煙をあげるがいいさ。阿呆。」
このように、どんなに寒くとも、信玄は火をおこすことを許しませんでした。
では特殊な道具を用いて暖をとったのかというと、そうではありません。
使ったのは自分たちの身体だけ。
それが「足」でした。
「寒い~」としゃがみこむ兵に、信玄は「立ったまま一所に固まって足踏みしていれば凍えはせぬ、座れば余計凍えるぞ阿呆。」と指示します。
この信玄は語尾に「~阿呆」ってつけちゃう系キャラなんじゃないかと思うほど阿呆阿呆言ってますね阿呆。
ともかく、信玄は火を焚かず、足踏みで暖をとるよう指示を出して、寒冷地四級地指定・佐久の雪降る夜を乗り切ったのでした。
体の暖房スイッチは「ふくらはぎ」
たしかに足踏みは身体を動かすので、なんとなく良さそうです。
でも、腕を回すとか、そんな運動でも身体は暖まりそうじゃないですか?
いや、あくまで足踏みが良いのですよ阿呆。
私たちの体温は、外界の気温によらず、一定に保たれています。
体温を一定に保つのが、熱産生と熱放散のバランスです。
熱産生とは身体の熱を作ること。
逆に、熱放散は身体の熱を発散させることです。
身体が寒くなると、体温上昇のために熱産生の促進と熱放散の抑制がなされます。
熱産生のメインとなるのが筋肉。
筋肉のエネルギー代謝が活発になることで熱が発生します。
寒いとぶるぶると身体が震えてしまうのは、骨格筋を細かく動かして熱を生み出せという脳からの指示によるもの。
そして、寒さで無意識に足踏みしてしまうも熱を発生させるため。
つまり、足踏みは本能が選んだ熱産生のための行動なのです。
筋肉の動きによって生み出された熱を全身に伝え身体を暖めるのは、血液です。
私たちの身体全体の血液の70%は下半身に集まっています。
足から血液を送り出し、全身を巡らせるために大きな役割を果たすのが、ふくらはぎの筋肉。
ふくらはぎの筋肉がポンプのように働くことによって、血液が全身へ送り出されていくのです。
このことから、「足は第二の心臓」とも言われているほど。
足踏みすることでふくらはぎの筋肉が活発に動き、血液循環が良くなり、熱が身体全体に伝わっていくのです。
熱を生み出すこと。
その生み出した熱を全身に届けること。
この二つの役割を果たすのが「足踏み」なのです。
さらに、末端から動かすことで凍傷も防ぎます。
しかも、その場でできて省スペース。
特別な準備も道具もスキルも必要ありませんよ阿呆。
まとめ
さて、一部の武将の方々を除き、我々はあまり雪の中で城攻めするようなことはないでしょう。
ですが、日常生活だって十分寒いんですよコンチクショー。
そんなときは足踏みをして身体を暖め、不幸の連鎖を断ち切るのです!
足踏みでレッツぬくぬくサバイバル!
サバイバルポイント
ふくらはぎを鍛えると、冷え性が改善されて、むくみがなくなって、疲れにくくなって、美脚になって、長生きできるようです。
今のとこ、良いことしかありません。