「レ・ミゼラブル」で、ミリエル司教の恩を受けたジャン・バルジャンがあろうことか司教から盗んだのは銀食器でした。
銀食器は価値ある財産。
その価値はもちろん、銀そのものの価値や、職人技の価値でした。
しかし、貴族・王族にとっては、
毒物に反応して色を変える銀の性質
こそが銀食器の価値であったと言います。
貴族・王族にとって「毒殺」は身近な危機。
今夜のメニューにちょっと一服盛られちゃうなんていうのも、よくある出来事だったのです。
さて、翻って現代。
一般的に考えて毒殺されるということは、私たちにはほぼ起こり得ないでしょう。
ほぼ???
でも、ほぼじゃなかったら・・・?
そのほぼじゃないあたりをフォローしてこそのサバイバルでは?
ということで、毒殺を回避するためにできることを考えていきましょう。
たとえば、毒殺を回避するためにとられる手段の一つが「毒味」です。
毒味する人のリスク回避にはまったくなっていないのですが、そこは置いておいて。
毒味とは、誰かに先に食べ物を食べさせて、その反応を見ることで安全かどうかを確認する古典的な方法です。
ですが・・・
毒味を潜り抜けて、
本命に毒物を食べさせるトリック
があるのです!
テキストは『ヒストリエ』第105話
そんな物騒なトリックが登場するのが、
漫画『ヒストリエ』第105話「引っ越し祝・2」です。
『ヒストリエ』は月刊アフタヌーンに、お休みがちに連載中の歴史漫画。
アレキサンダー大王の書記官・エウメネスの物語です。
作者は『寄生獣』の岩明均先生。
エウメネスは、マケドニアのフィリッポス王の元に奉職中。
このたび、フィリッポス王とエウリュディケの婚姻が決まって慌ただしくなるなか、エウメネスは不穏なものを感じ取ります。
ちなみにエウリュディケはエウメネスとゴニョゴニョだったんだけど、そこは貴族の娘。
割り切っていきまっしょい。
それにしても、エウメネスは地味にモテます。
いろんな事情をはらみつつ、エウメネスは世話係の女に「注意するように」と声をかけ、万事に目を光らせていました。
すると、女から報告が。
新しい包丁がいつの間にか増えていたというのです。
その包丁はいかにも干し肉を切るのに良さそうな包丁でした。
さらに、絶好のタイミングで干し肉が届いているというのです。
あやしい・・・
2頭の犬で毒味の実験
エウメネスはある仮説を立て、実験をします。
この包丁は、エウリュディケを
暗殺するために何者かが用意したものであること。
この包丁は毒味があることを想定し、
毒味をくぐり抜けるための細工がしてあること。
こう仮定しての実験です。
エウメネスは、犬を2頭連れてこさせます。
そして、ナイフで干し肉を2枚切って犬に与えました。
1枚目の干し肉を一方の犬に。
2枚目の干し肉をもう一方の犬に。
この場合、1枚目の干し肉を食べる1頭目の犬が「毒味役」ということになります。
結果は・・・
2枚目の干し肉を食べた2頭目の犬が倒れたのです。
つまり、
毒味役ではなく
ターゲットのみが毒にあたった
ことになります。
エウメネスは、このトリックの種明かしをします。
・即効性の高い強力な毒を包丁の刃の片面だけに塗る。
・犯人は、毒味役が左利きであることを聞き出していたため、刃の右側にのみ毒を塗る。
・左利きの人物を想定し、干し肉を右手で押さえて、包丁を左手で持って切る。
・すると、1枚目の肉を切ったときに、残った干し肉の塊の断面に毒が付着。
・続いて切ると、毒が付着した断面が2枚目の肉になる。
こうすることで、最初に1枚目の肉が毒味として食べられても
毒味役は無事で済む。
そして、
本命に毒のついた肉を食べさせることができる
というわけです。
調理器具に毒を仕込むという発想
このトリックから学べることは、
疑うべきは食べ物ではなく「調理器具」かもしれないということ。
食べ物に毒を混入させると、その一皿あるいは一鍋全部に毒物が入ってしまい、毒味で発見されてしまいます。
また、同席者すべてに被害が及ぶことになり、場合によっては犯人も被害を被る可能性があります。
逆に、調理器具に毒物を塗れば・・・
毒物の付着をコントロールでき、
工夫次第でターゲットを
ピンポイントで狙うことも可能。
これが、今回のトリックでした。
さらに、ひとたび毒殺事件が起きれば、恐らく最初に検査されるのは食べ物でしょう。
容疑の目も、まずは調理人あるいは食べ物の出所に向くでしょう。
その間に時間を稼げますし、あるいは証拠隠滅を図ることもできます。
なんと周到な手口・・・
毒殺と言うとどうしても食品に目が行きがちですが、
調理器具に気をつけることも必要。
エウメネスはそこに気がついたことで、毒殺を未然に防ぐことができたのです。
「いつもと違う・・・」に気をつけろ!
気をつけるポイントは「見慣れないもの」です。
エウメネスはあらかじめ、世話係の女に、見慣れぬ食器・匙・串、特に刃物が見つかったら報告するように声をかけていました。
そして、見慣れぬ包丁を見つけた女がエウメネスに報告し、犬の実験となったのです。
一般家庭では、見慣れない調理器具が増えているということはあまりないでしょう。
しかし、
いつもと違う場所に調理器具がしまわれていたら・・・
いつもと違う向きに置かれていたら・・・
誰かが何か仕掛けたのかもしれません。
ごく身近にある毒とは?
毒は、何者かによって盛られるものだけではありません。
自然に増殖するものもあります。
たとえば、カビ。
たとえば、菌。
これらは中毒を引き起こす原因になり、ときには最悪の事態を招きます。
小さい子どもやお年寄りは特に注意しなければいけません。
冒頭の銀食器ですが、ヨーロッパの貴族は銀の抗菌作用も利用していたと言われます。
食物の保管や鮮度にこだわるのと同じくらい、
食器・調理器具の衛生管理には気をつけてくださいね。
梅雨時期や夏場はすぐ発生するし、一気に増殖するし、とにかくやばいです。
ヨーロッパ貴族じゃないあなたは、銀イオンの洗剤で対抗しときましょう!
サバイバルポイント
日本は生で食べる文化があります。
寿司とか刺し身とか生魚を食べたり、馬刺しとか鳥刺しとか生肉も食べますよね。
こういうの旨いんですけど・・・・・・食中毒のリスクがあることをお忘れなく。
特に、時間が経ってるのは危険です!