「ノアの方舟」でおなじみの「創世記」ラストにある主の御言葉、「産めよ、増えよ、地に満ちよ」。
この言葉どおり、地上に人類は満ち溢れ、今日も田園都市線は満員御礼。
これほどの人類が繁栄した理由のひとつには、人間の持つ社会性があると言われています。
大きな爪も翼も牙も持たない、個々としては脆弱な生物にすぎない人間ですが、社会性でもってお互いに助け合い、支え合うことこそがその生存戦略だということです。
「人間は、善く生きることを目指す者同士の共同体をつくることで完成に至るという、他の動物にはない特性を持った動物である」と哲学者・アリストテレスがすでに古代ギリシャ時代に人間を定義し、人間は社会的動物であるとしています。
そんな社会的動物としてこの世をサバイバルするために必須の能力が。
コミュニケーション能力。
いわゆるコミュ力。
そこで、人間社会を生き抜くため、コミュニケーションについて改めておさらいしてみようではないですか。
テキストになるのは『古見さんは、コミュ症です。』です。
週間少年サンデー連載中の学園漫画で、タイトルどおり、
ヒロインはコミュ症かつ誰もが心酔する美少女・古見硝子(こみ しょうこ)。
主人公・只野仁人(ただの ひとひと)は黒歴史持ちの凡人で、ある出来事をきっかけに、古見さんの友達第一号となります。
幼なじみのコミュ力おばけ・長名なじみ(おさな なじみ)、あがり症のぽちゃ眼鏡っこ・上理 卑美子(あがり ひみこ)・・・
そろそろお気づきかもしれませんが、登場人物はそれぞれの属性に関連したネーミングの「奇面組」システムだったりします。
そんなさまざまな属性を持つユニークなクラスメイトとの学園生活や、古見さんのいじらしさがこの漫画の見どころ。
同時に、コミュニケーションについても考えさせる内容です。
この作品における「コミュ症」とは、こう定義されています。
「人付き合いを苦手とする症状。またはその症状を持つ人を指す。」
精神医学分野で言うコミュニケーション障害よりも、ネットスラングで言うところの「コミュ障」に近い状態をさすようです。
ので、もしももうちょっと深刻なケースでしたら、むしろこちらの漫画がおすすめかもしれません。
>「マンガで分かる心療内科」
俺のこがねエエエエエエエエエエエ!
んんっ!んっ!話は古見さんに戻って。
まずは、古見さん側の視点つまりコミュ症側に着目してみましょう。
<ポイントその1→人付き合いが嫌いなのではなく苦手なだけ>
古見さんは、人付き合いが苦手です。
ですが、人間が嫌いなわけではありません
むしろ「友達100人ほしい」というくらい、みんなと仲良くしたいのです。
仲良くしたいのに、人と上手に話すことができないだけなのです。
<ポイントその2→不安が極端に強い>
では、苦手な原因は何でしょうか。
古見さんは、修学旅行のグループになじめなかったことが原因で、中学時代はひとりで過ごしていました。
「話しかけた後、どうしよう」
「拒否されたらどうしよう」
「次の会話はどうしよう」
「つまらないって言われたらどうしよう」
「うまく笑えなかったらどうしよう」
「私は一生このままだったらどうしよう」・・・
古見さんの独白の一部です。
これらのことって、実は誰でも少しは思っていることじゃないですか?
古見さんは、そういった誰にでもありうる不安を、極端に強く感じているのです。
さらに、独白がすすむと「私にはうまくできません」「ごめんなさい」「すみません」といった言葉が続き、自己否定にまで至ります。
このように古見さんはとっても不安で、自己評価が低いタイプなのです。
美人なのに!
でも、美しさは罪とはまさにこのこと。
古見さんの場合、美人すぎて周囲と距離が出来がちでした。
それが、強い不安と自己評価の低さへつながって、人付き合いを苦手にしていたのです。
コミュ症側の視点をいったんまとめると、こう。
・実は仲良くしたいと思っているケースもあること。
・人付き合いへの不安が強く、うまくつきあえないケースもあること。
こういったことが、コミュニケーションが苦手な人の中でおこっているのだと知ることは、相手への理解につながるのではないでしょうか。
続いて、周囲の対応について。
どのようにブレイクスルーしていったら良いか、只野君の行動から探ります。
<ポイントその3→筆談などを利用する>
コミュニケーションをとりづらくする原因のひとつが、言語の問題。
上手に発声できない、言葉がつまってしまうなどです。
これは、過去に起こったトラウマや、極度の緊張・ストレスによっておこりうるそう。
古見さんも、極度の不安から固まってしまい、「ななななななななな」となっています。
これがかわいいんですけど、本人には一大事です。
古見さんのように、発声しての会話を介したコミュニケーションがとりづらいケースなら、筆談が有効かもしれません。
主人公・只野君は、古見さんが筆談なら話せることに気が付いて、彼女の胸の内を聞くことになったのです。←全俺泣の名シーン。
この気づきは、只野君が古見さんの美しい容姿だけにとらわれることなく、彼女を「見て」いたからこそでした。
その後も、古見さんの主なコミュニケーション手段は筆談です。そしてこれまたかわいい。
筆談以外にも、例えばチャットツールを利用するなど、相手に寄り添った対応をすることにブレイクスルーの可能性がありそうです。
最後に、コミュ症側からのブレイクスルーについて。
自分が古見さんのポジションにある、つまりコミュ症であると感じている場合、古見さんの何が参考になるでしょうか。
<ポイントその4→周りも不安に思ってるし、スベる。けど何事もないから大丈夫>
上手に話せない、人付き合いができない場合、多くは古見さんのように「どうしよう」という不安を感じているのでは。
それなら心配に及びません、誰しもが多少の違いはあれど、不安に感じたことがあるものです。
そして、わりと不安は的中して、スベります。
けれどたいていはそれでも何事もないものです。
<ポイントその5→自信をもって良い>
周囲に距離を置かれていると感じていたら。
それは古見さんがその美しさから畏怖を抱かれているのと同じように、周囲はあなたに対して一目おいているのかもしれませんよ。
<ポイントその6→まずは筆談>
そして、比較的得意な何らかのコミュニケーション手段を見つけておくこと。
古見さんのように、まずは筆談を試してみてはいかがでしょうか。
という感じで、『古見さんは、コミュ症です。』をテキストに、コミュ症側への理解、周囲の対応、本人によるブレイクスルーの3点をポイントとしてコミュニケーションについておさらいしてみましたが。
みましたが。
他者をよく見つめ、寄り添い、その痛みを想像し、いたわることの大切さがひしひしと身に沁みました・・・
凡人だというけど只野君、ぐう聖人。
ここで改めて、アリストテレスが定義した「人間は、善く生きることを目指す者同士の共同体をつくることで完成に至る」の「善く生きる」というワードのやばみが深いことがわかってくるというものです。
待って無理アリストテレス尊すぎてしんどい。
コミュニケーションは思いやり。
それこそが人類全体でのサバイバルなのです。生存戦略~!
サバイバルポイント
自分がコミュ症にしろ相手がコミュ症にしろ、そのままでいいワケがない。筆談から始めてみては如何だろうか?