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マンガ『鉄腕アダム』を読んで純水が絶縁体であることを学ぶ

[WRITER] ダクトテープ

水浸しの床に千切れた電線やコードをたらして、敵を誘い込む。

 

映画などで、非力だったり体格差があったりする主人公が、窮地を免れるタイミングでよく見られるトラップです。
一度に大勢の敵をダウンさせたり、見せ場としてのインパクトは十分。

 

さて、そのインパクトゆえに、こういう情報もしっかりと脳にインプットされているはず。

 

「水は電気伝導体である」と。

 

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たしかに理科の実験でもありましたよね。
食塩水通して豆電球つけるやつ。
でも、あれ、水が電気を通しているんじゃないんです。

 

水そのものには、電子を移動させる力がありません。

電子を移動させているのは、水に溶け込んでいる電解質の不純物。

 

つまり、純水は絶縁体なのです。

 

この、純水は実は絶縁体であるという事実を利用してピンチをサバイブする作品があります。

 

今回は漫画『鉄腕アダム』で、純水が絶縁体であることを学んでみましょう。

 

『鉄腕アダム』は少年ジャンプ+で連載中の近未来SF。
2045年、新たな冷戦の中、異常気象、海洋の酸性化、大気汚染、動植物の絶滅が進む地球。
その一方で人類は火星入植を目指す時代。
宇宙のどこかから「 蝶 」と呼称される機械だか生物だかよくわからないけど大きくて怖くて歯並びの良いものが飛来。
「蝶」が地球に落ちる前に食い止めるのが、村上春樹を愛読するヒューマノイド・アダムです。

 

さて、蝶に対する唯一の対抗策と目されて来たアダムですが、♯6においてライバルとなる「プルートゥ」が登場します。
タイトルからしてそうですが、「鉄腕アトム」へのオマージュが散見されるのもこの漫画の特徴。
そして、このプルートゥ登場の第一巻♯6が「純水」のエピソードなのです。

 

第三次蝶迎撃ミッション。
アダムが宇宙空間で戦う「蝶」については、何もわかっていません。
どこから来た、「何」なのか。
さらに厄介なことに、毎回リニューアルしてやってくるのです。
今回はトポロジカル絶縁体になって登場します。

 

トポロジカル・・・

 

「表面にだけ電気が流れ、内部には流れない」
「実験で理論は実証されたが実用化には至っていない組成体」

 

作品中の語句をまんま引用させていただきましたが、つまりは電気うなぎなんだそうです。
電気うなぎの例えも作品のまんまですが。

 

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蝶の体表に電気が流れているので、炭素繊維と金属がメイン素材のアダムには触れることができません。

 

あとわずかで蝶が地球に落ちるというピンチで、純水を使用することが提案されます。
アダムは、スモークポッド中の純水を宇宙空間の超低温で凍らせて腕にまとい、蝶を攻撃。
逆演算をかけて蝶を初期状態に戻し、トポロジカル絶縁体である今回の蝶の撃退に成功しました。

 

蝶の体表を流れる電気から身を守るための絶縁体として純水を利用したわけです。

 

最初に言った通り、水そのものには、電子を移動させる力がありません。
電気が流れるということは、電子が移動するということです。

水道水などの水には電解質が不純物として含まれていて、それが電子のやりとりをして、電気が流れます。

ところが純粋な水である純水の場合、その電子を担う電解質がいないので、電気は流れないのです。

 

しかし、実は水の分子そのものもほんの少しだけイオン化します。
つまり電解質を除去した純水であっても、ほんのわずかな電気は通すのです。

 

電気を通すなら絶縁体ではないのでは?

 

ちょっと絶縁体の条件について調べてみましょう。

 

まず、電気を通す/通さないで物質を考えた場合、

 

①導体

②半導体

③絶縁体

 

が存在することになります。

 

その物質の中の自由電子の多さで電気の通しやすさが変化し、この電気の通しやすさで導体、半導体、絶縁体の区分がされます。

 

①電気を通しやすい=導体(水、銅、アルミニウムなど)

②導体と絶縁体の間くらい=半導体(シリコンなど)

③電気を通しにくい=絶縁体(純水、ガラス、ゴムなど)

 

と言うことだそうで、一定の「通しにくさ」があれば、絶縁体なわけです。

半導体は、何と言いますか、外因によってちょいちょい性質を変えることがあり(でき)、温度によってその性質を変えることがあります。例えばシリコンは、低温では絶縁体であるが、高温では導体になる性質を持っているため、電子機器などに良く応用されているのですね。

 

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実は、物理学的には半導体と絶縁体の間には明確な区分がないんだそうです。

 

「そうとも言えるし、そうじゃないとも言えるんじゃないか。」
そんな、村上春樹の小説の主人公のような返事が物理学の答えか!文学か!

 

・・・そこで、数勘定に頼って条件を探りなおすことにしてみましょう。

 

純水も絶縁体に分類されているのですが、何かこう、物質じゃないのでスッキリしない。

やっぱりものごとをはっきりさせるなら数字ですよ、数字。
電気の通しやすさで区分されるなら、通しやすさ=電気伝導率の数字でどうだ。

 

さて、電気伝導率で区分する場合、グラファイト(黒鉛)の伝導率が基準になるそうです。
グラファイトの電気伝導率は106S/m。

106S/m以下であれば絶縁体の条件を満たすというわけです(うっ、自分でも頭が)。

 

はたして純水の電気伝導率は?

 

まずは、半導体の工場などで使用される超純水

その電気伝導率は 0.06μS/cm 以下です。

 

・・・おっと、ここで「μS」に検索が引っかかったラブライバーはすまないが帰ってくれないか!
これは単位の話なんだ!

 

とりあえず、μSとcmの単位を整理すると、100S/m=1S/cm、そして1mS/cm=1000 μS/cm。
そろそろめんどくさくなって来たところでざっくりいくと(おい)、超純水の電気伝導率の数値が超低いってことです。

 

超純水は、文句なしに絶縁体です。

 

数字ははっきりするけどめんどいな、これ。

 

そして、純水。

1μS/cm以下なので、これも絶縁体の条件である106S/m以下。

 

さらに、理論的に考えた場合の純水=理論純水というのもあって、理論純水の電気伝導率は0.054 79μS/cm。
しかし名前通り、あくまで「僕が考えた最強の純水」なので、存在はしません。

 

「完璧な純水などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。」
また村上春樹か!今度は哲学か!

 

と言うわけで、純水は絶縁体であると言える条件を満たしていました。

 

実用化されたトポロジカル絶縁体電気うなぎに遭遇した時には、絶縁体である純水をもってこれに対抗できる可能性があると言うことです。

 

肝心な純水を手に入れる方法ですが。

半導体やレンズ、精密機械のプラント、医療現場、研究室などで、主に洗浄用として使用されています。
そういった施設をあたるか、水処理を行う専門の会社にあたるかになりそうです。

 

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ということは。

 

こうしたプラントや医療現場、研究室では、水+電線のトラップは使えないケースもあるということもぜひ覚えて置きましょう。

 

追い詰められた主人公宜しく足元を水浸しにして配線電撃トラップを張り、「これでどうだぁ!」と息巻くものの、まさかの悪者に「ふはははは馬鹿め、お前がまいたのは純水なのだぁ!」と蘊蓄を語られかねません。十分に注意しましょう。

 

また、手に入れた純水はすぐ使うこと。
あるいは使う直前に採取すること。
物質を取り込みやすいので、あっという間にさまざまな不純物が混じってしまいます。
泡立てたりしたらアウトです。

 

純水の品質を保つための容器選びも重要。
純水は非常にものを溶かしやすい水です。
そこで、成分溶出の少ない素材でできた容器を使用する必要があります。
もちろん、不純物の付着のないものでなくてはいけません。

 

純水の扱いがちょっと、いやだいぶ難易度が高いんですが、サバイブするためです。覚えておきましょう。

 

そして、最後に。

アダムは純水を凍らせて使用しました。

もともと氷の電気伝導率は低く、だいたい半導体という位置付けなんです。
純水が絶縁体であることと合わせて、氷が半導体であることも覚えておくと、応用がきくかもしれません。

 

2045年、果たして村上春樹氏はノーベル賞受賞者として名を連ねているのでしょうか。

サバイバルポイント

①純水は絶縁体である
②純水はプラントや研究室で入手可能、扱いはやや困難
③氷は半導体である